栞「あ、そうだ! 昨日コンビニで一年ぶりに由希菜に会ったよ。あの子は幼稚園の頃からメガネだったのに、昨日はコンタクトだったから呼び止められても気付かなかったよ。本当に別人みたいだった〜」
拓真「へぇ、意外。メガネ姿が定着してたから、俺は街で会っても気付かないかも……」
栞「でしょでしょ。メガネが顔の一部だったもんね。私が由希菜の似顔絵を書いたら、真っ先にメガネを描いちゃうかも」
拓真「俺も一緒。そう言えば、栞は由希菜と仲が良かったよな」
栞は私達が口出し出来ないような話題に触れた。
勿論、悪意があって言ってるのかわからない。
私と愛莉は拓真を挟んだ状態で不満の目を見合わせる。
結局、その状態のまま昼休みを終えた。
拓真が隣に座っているにも関わらず、会話をするタイミングを外してモヤモヤ感だけが残されてしまった。
ーー同日の放課後。
いつものように拓真のクラスの下駄箱で待っていると、昼に引き続いて栞は拓真と一緒に現れた。
そして、昼休みと同様、私が口を開こうとする前に栞の口は開かれる。
「あ、和葉さん。昼も帰りも来るのが早いですね。教室が下駄箱の近くなんですか?」
1分1秒でも早く拓真に会いたくて死に物狂いで走って来てるとは、プライドが邪魔して言えるはずがない。
それに、栞自身も気づいてるはず。
あざとい女とはこーゆー人の事を言うのか……。
「ま……、まぁ」
「嘘つくなよ。お前の教室は別棟の3階にあるから、下駄箱までそんなに近くないだろ」
「……っ! いつもHRが終わるのが早いの!」
拓真が一瞬でも話してくれるだけでもバカみたいに嬉しくなった。
それだけ気持ちが窮地に追い込まれていたから。
「そうなんですね。和葉さんはいつも駅まで拓真と一緒に帰ってたんですよね」
「うん、そうだけど」
「私、拓真家の近くのマンションで一人暮らしを始めたので、これからは一緒に帰ってもいいですか?」
「えっ、栞ちゃんもこれから毎日一緒に学校から帰るって事?」
「はい。私が一緒じゃダメですか?」
「えっ、あの……」
「ここは地元ですが、幼稚園から私立に通っていたので知り合いはほとんどいなくて、帰り道は一人じゃ心細いので」
栞は絶句している私に対して、しおらしく上目遣いをしてくる。
放課後からの時間も犠牲になると知った瞬間、ハンマーで頭を殴られるくらい強いショックを受けた。
『一緒に帰りたくない』とか。
『拓真から離れてよ』とか。
心の中に留めている本音を全て吐き出したかった。
でも、それは出来ない。
拓真に出会う以前なら、自分の想いを躊躇なく口にしていた。
気に入った男には傍にいて欲しかったから、取り巻いていた女にはこっ酷いセリフを吐いて女を引き離していた。
あの時は、自分の気持ちを優先していたから。
でも、今は違う。
ここで本音を吐き出したら、一瞬で拓真に嫌われてしまいそうな気がしてならない。
私はこの恋が本気な分だけ臆病になっている。
「うん……、いいよ。一緒に帰ろう」
私はこの先の自分を守る為に裏腹な想いを口にした。
180度向こう側の気持ちを伝えたのが辛くて、心臓が握りつぶされそうなほど息苦しい。
それは、歴代の彼氏を使い捨てにしたり、取り巻く女を軽視していた自分にバチが当たってしまったかのように。



