拓真に横目を向けたけど、会話に入る様子はない。
ここに来てから一度も口を開かないという事は、昼休みに中庭に現れなかった事と、栞を下駄箱に連れて来た事で、少し後ろめたさを感じているのだろうか。
「あの広大な敷地で二人だけで農作業をするのは大変ですよね」
「えぇ……。まぁ」
「だから、私も微力ながらお手伝いしたいと思って、今週末から農作業に参加する事にしました。これから、よろしくお願いします」
「えっ、栞ちゃんが一緒に農作業を?」
「あ、はい。農作業は未経験だから足手まといになってしまうかもしれませんが、三人で作業した方が進みが早いと思うんです。いつも夕方までかかってるみたいですし、一人増えれば個々の負担も軽くなるかと思って」
固い決意にニコリと屈託のない笑顔。
当然、和葉の気持ちは渦巻くばかりに。
冗談でしょ。
毎週末、拓真と二人きりでやっていた農作業を、今後は三人でやっていくつもりなの?
昼食も一緒に食卓を囲むって事?
嫌、そんなの絶対にあり得ない。
これ以上拓真と二人きりの時間を奪わないでよ……。
農作業の日の朝、自宅から長い道のりを経て畑に現れた私を、温かな眼差しで待ち受けていてくれたり。
『サボるなよ』と言って口をへの字に結びながら、作業の手を止めていた私に怒ったり。
昼食時にガッついてご飯を食べている私に呆れて鼻であしらったり。
暗い夜道を心配して駅まで送ってくれたり。
農作業を通じて培ってきた思い出は、ほんの些細な事だって人に教えたくないくらい宝物なのに。
栞が農作業に加わったら思い出が半減するどころか、二人きりになる時間が完全になくなっちゃう。
他は許す事が出来ても、週末の時間までは奪われたくない。
拓真と二人きりの食事の時間だって、私には恋を育む幸せな時間だったのに。
でも、波乱な人生を経て数々の女の醜態を見てきたけど、栞を見て少し気になる事があった。
それは、農作業に加わる決意をした瞳は純粋そのもの。
私達の仲を引き裂こうと企んでるようには見えない。
ーーこれが、本物の栞。
不安に溺れるあまり、拓真の気持ちが知りたくなって目線を向けた。
しかし、彼は感情を一切表に出さない。
うんともすんとも言わずにいるのは、この件に関して納得しているから?
本当に栞の手助けが必要?
私が毎週末手伝っていても、まだ人手が足りない?
それとも、過去に好きだった栞にまた傍にいて欲しいと思ってる?
悔しい……。
拓真の気持ちが読めないよ。
「ごめん、今日は先に帰るね」
気付いたらそう言って二人に背を向けていた。
栞が拓真と二人きりになるのは嫌だけど、嫉妬に塗り固められていてどうしようもない。
こうして、突然嵐のように現れた栞は、一から築き上げてきた二人の居場所を、一つずつゆっくりと奪い始めた。
私はLOVE HUNTER
新たなライバルの出現によって、今まで経験した事のない苦痛を味わう。
しかし、この恋が本物だけに苦境の乗り越え方がわからない。
彼の気持ちが少しでもわかっていれば、こんな辛い想いをせずに済んだのに……。



