LOVE HUNTER



和葉は再び一人になると聞き耳を立てた。
神経を集中させないと、外気音に二人の声が埋もれてしまう。



「さっきの女の子はどんな関係? もしかして新しい彼女?」



栞が最初に質問してきたのは、初対面の私の事。

それもそのはず。
見知らぬ女が農作業の格好のまま家に上がり込んでいるのだから。

しかし、急遽本音が聞ける機会が訪れると、期待するあまり喉が鳴るほど息を飲んだ。



「……いや、あの人は学校の先輩」



すかさずそう告げられた瞬間、心の中で猛吹雪が襲ってきた。



ガーン……。
確かにそうなんだけど、せめて大切な女友達とか、身近な存在とか、もう少し他に何かあったんじゃないの?



「そうなんだぁ! あの子は彼女じゃないんだ。……良かった。さっきは農作業の格好をしていたからビックリしちゃった」



栞はまるで弾けるような返事をすると、可愛らしい笑顔を向けた。



植え込みから覗き始めてから、栞はずっと笑顔を保ち続けている。
この私が悔しくなるほど可愛いらしい。

いや……、顔は私の方が3倍くらい可愛いけどね。



拓真を見つめる瞳は、愛莉や拓真に群がるメスどもと変わらない。

あれは恋する目つき。
拓真が好きという感情が滲み出ている。
だから、この時点から栞の事が嫌いになり始めていた。



「あのね。実は私、拓真と同じ高校に転校するの。親元を離れて一人暮らしをしようと思って」

「へぇ。あの厳しい両親がよく許してくれたな」


「うん、そうなの。先日引越しの手続きで来た時に拓真に会いたいなと思って家の前まで来たんだけど、急だったし勇気がなくて……」

「……そっか」



穏やかな口調で返事をする拓真。
栞だけを待ち望んでいたような、温かい眼差しを向けている。

残念ながら、約一ヶ月半一度たりとも見せた事のないような柔和で優しい表情。
悔しいほど恨めしい。


この時、何よりも心配していたのは、拓真の心に恋愛感情はまだ健在しているかどうか。
ツンデレのデレが解禁されたその瞬間、嫉妬心は煮えたぎりそうなほど激しさを増していた。


和やかムードが瞳に映るだけで、畑に向かって大声で発狂したくなるほどイライラが募っていく。



拓真はこれからどうするつもりなの?
今の心境は?
街に戻ってきた栞のように、心の時計の針も栞と過ごしていた一年前で止まったままなの?

そしてこの先、私の恋にどんな波乱が待ち受けているのだろうか。



和葉はこれ以上聞く耳が持てなくなり、植え込みからそっと離れた。



いつもだったら拓真が駅まで送ってくれるのに、今日はこの田舎道を一人で帰らなければならない。
でも、今日は気分が最悪だからちょどいい。
傍には誰もいない方がいい。

だって、瞳から大粒の雨が降りだしそうだったから……。






雨で農作業が中断した先週の夕方の帰り道。
相合傘でよそ見をして歩いていた私がぶつかった相手は栞だったかもしれない。

あの日は台風のように風が強くて傘が邪魔をしていたから、相手の顔を見る事ができなかった。

しかも、思い返してみたら、拓真は何かを感じたかのように立ち止まって、女性の後ろ姿をジッと見つめていた。