沈黙の後、拓真は和葉に目を向けて少し遠慮がちに伝えた。
「悪い……。今日はもう帰ってもらってもいいかな。俺、栞に話があるから」
「……あ、うん。分かった」
和葉は拓真の元を離れて着替えが置いてある洗面所に向かった。
話を聞いただけでわかりきれない部分があったけど、初めて栞という人物を知った。
スカートからはふくらはぎの傷跡が確認出来ない。
こうして、日々積み上げてきた二人の関係は、一年ぶりに街に戻ってきた栞によってゆっくり揺らぎ始める。
和葉は洗面所で着替え終えてから「お邪魔しました」と、無人の玄関から声を届けるが、誰からも返事はない。
履いてきたスニーカーは、玄関に揃えられた白いパンプスと引き換えに外へと追いやられる羽目に。
二人の動向が気になって仕方がない。
栞がプッシュして拓真の気持ちが揺れ動いてしまったら、私の恋が惨敗してしまう。
このまま帰ったら絶対に後悔する。
だから、一度帰るふりをしてから再び敷地内に戻って、遠目から拓真達を探す事に。
すると、二人が縁側に腰を下ろしているところを発見。
母屋から7メートルくらい離れている植え込みに身を潜めて、二人の様子を伺う事にした。
こんな非常事態時だけど、出会った当初から始めていたストーカー行為は今になって役に立つとは……。
だけど、成功と同時に猛烈な虚しさがこみ上げてきた。
あー。
私ったら、物影に隠れてまで二人の観察をするなんて本当にどうかしてる。
超絶美人でスタイル抜群のモテ女なのに。
拓真に出会う前までは男には苦労知らずで余裕ぶっこいていたのに。
恋をした途端から、自分が自分じゃなくなってしまった。
言う事を聞いて我慢して帰ればいいものの、身を隠してまで二人に喰らい付いている自分が正直怖い。
すると、ジョウロを持って敷地内の水やりをしていたお婆さんは、植え込みの隙間から顔を覗かせている和葉に気付いて背中から声をかけた。
「あらぁ、和葉ちゃん。まだ帰ってなかったの?」
「……!!(ギクッ)」
「さっき、玄関から『お邪魔しました』と言う声が聞こえてきたから、てっきり帰ったかと……」
和葉は植え込みに上手く隠れたつもりが、背後からは丸見えに。
家を出てから5分足らずで見つかったと言う事は、ストーカー以前にかくれんぼとしても最弱に。
「……しっ。一生のお願いだから暫くここに隠れさせて」
「えっ?」
「それと、ここで聞き耳を立てていた事を拓真には絶対言わないでね」
和葉は関係ないお婆さんを巻き添いにしてまで悪事を続けようとした。
一方のお婆さんは、首を傾げながらも大人しく立ち去る事に。



