「大丈夫じゃないよ。何度も何度も話しかけてるのに。無視なんて辛すぎる」
「……分かったよ」
さっきまでは目線すら合わせてくれなかったけど、ようやく口を開いてくれた。
和葉は立ち上がって拓真のいる場所まで追いつくと、疑問をぶつけた。
「ねぇ、今朝からどうしてそんなに不機嫌なの?」
「別に」
そう言いつつも、素っ気ない返事が届く。
私に残されたタイムリミットは駅までの10分間。
その間、言いたい事を伝えなければいけないし、聞きたい事は全て引き出さなければならない。
何故なら、拓真は一切残業をしないから。
和葉は行手を阻むように正面に周った。
「今朝は廊下で目が合っても無視するし、昼は中庭で男子と話してる時に、『ごゆっくり』とか言ってきてさぁ。……ちょっと誤解してない? あの人とは拓真が思ってるような関係じゃないよ」
「別に誤解なんてしてない」
「じゃあ、なんでそんなに不機嫌なの?」
目と目をしっかり合わせて、話は核心へと迫った。
すると……。
「それは、怪我が心配で会いに行ったのに、二人の会話を黙って聞いてたら昨日遊びに行ったって……。こっちは夜眠れなくなるくらい心配してたのにさ」
拓真はボソリと本音を吐き出すと、目線を外して口を尖らせた。
一方の和葉は、想像以上に怪我の心配してくれていた事を知る。
「ごめん。駅で別れた後も怪我の心配をしててくれたんだ」
「当たり前だろ。お前が帰ってからも気が気じゃなかったのに、お前は呑気に遊びに行ってたんだろ」
「確かにあの状態で遊びに行くのは間違ってると思うけど、先日から友達とライブに行く約束をしてて、ドタキャンするのは申し訳ないと思って。それに、あの人のライブに行ったのは事前にチケットをもらったし、息抜き程度に行ってみようかなと思っただけで……」
彼氏でもないのに、浮気の誤解を解くような勢いで説得をした。
「あいつのライブに行った事なんて別に俺には関係ないし」
「でも、今朝からずっとあの人の事を気にしてたかと思って」
「全然」
「嘘……、してた。あの人と一緒にいる時は、不機嫌になってるように見えたもん」
「……は、俺が? 心配してるのは肘の怪我だけ。俺にも半分責任があるから」
どんなにカマをかけても、拓真は怪我の心配をしてると一点張り。
だけど、怒っていた原因だけは伝えてくれたからホッとした。



