拓真一筋のはずが、敦士に目線が釘付けてしまうくらい熱狂なライブに行った日の翌日。
秋の弱々しい日差しを浴びながら校舎の廊下を歩いていると……。
「和葉。おはよーっ!」
敦士は急に何処からか出現して馴れ馴れしく肩を組む。
「ちょっと、いきなり肩組まないでよ!」
和葉は嫌悪感を露わにして手を振りほどいた。
『拓真に見られたらどうするつもりなの?』と心の中では何とでも言えるけど、何故か口から出てこない。
「昨日は来てくれてありがと! また今度ライブがあるから友達と一緒においでよ。いま新曲作ってるから、次のライブでお披露目するかも」
「……え、もしかして敦士が曲を作ってるの? 敦士達ってオリジナルバンド?」
「コピーやっててもツマンナイしさ。歌詞は書けないから曲作るだけ」
「へぇ、すごいなぁ。なんか別世界。確かに昨日はいい曲ばっかりだったし、演奏してる姿はカッコ良かったよ。友達もライブが終わるまで大興奮だったし」
……と、ライブ話に花が咲いて敦士に笑顔を向けた瞬間。
その向こうから強い目線を感じ取った。
すかさず目を奥に向けると、そこには別棟に居るはずの拓真が何故か私の教室前で腕を組んで立っている。
その表情は、まるで仮面を被っているかのようにぴくりとも動かさない。
バッチリ目が合った瞬間、ドクンと低い鼓動が全身に響き渡った。
額に滲む冷や汗と、不器用に飲み込めない息。
まるで時が止まってしまったような感覚に。
ところが、間違いなく目線が合ったはずの拓真は、声をかける事なく離れて行った。
その瞬間、サーっと血の気が引いた。
ひょっとして今の会話を聞かれた?
でも、どうして拓真が私のクラスの前に?
まさか、用があって会いに来たとか。
……いや、そんなはずはない。
愛莉といざこざがあった日以来、会いに来た事なんて一度もなかったから。
もしかして、敦士との関係を誤解された?
二人きりで喋っていたし、昨日会った話をしていたから。
だから、何も言わずに帰っちゃったの?
和葉は誤解を解く為に一歩前に出て後を追おうとするが……。
「拓……」
キーン コーン カーン コーン
タイミング悪くチャイムが鳴って後味の悪い時間を手にする事に。
「んじゃ、また後で!」
和葉の思いなど知らない敦士は、鼻歌交じりで教室へ帰って行った。