「好きな感じの曲ばかりで楽しめたから来てよかったよ。誘ってくれてありがとう」

「本当に来てくれると思わなかったからびっくりした。和葉ちゃんが来てくれて超幸せ」


「実は友達がライブ好きで、以前はよくライブに行ってたの。今日は少し息抜きにと思って」

「ふぅん。その割にはオシャレしちゃって。ねぇ、ライブ観てから少しは気が向いてくれたんじゃない?」


「バーカ。これが普段着なの。勘違いしないで」



注文したウォッカがカウンターに置かれると、敦士はグラスを持って一気に飲み干した。
敦士は大人っぽいからお酒を飲んでる姿がサマになってる。
飲みっぷりからして結構強そうな感じ。




敦士とほろ酔い気分で喋っていると、ライブはあっと言う間に終盤に。
伴奏が始まると、会場内は再び意識が失いそうなほどの大音量に包まれた。



「ねぇ、和葉ちゃん……。▲$□@?☆……」

「えっ、何? 聞こえないよ」



スピーカーから届く爆音と観客の騒ぎ声で、急に敦士の声が聞こえなくなった。
大きな声を出して聞き返してみたけど、何を言ってるかさっぱりわからない。

すると、耳打ちするような仕草をしてきたので顔を寄せた。


ーーしかし、次の瞬間。

敦士の唇が頬に触れた。


二人だけしか知らない不意打ちキス。
敦士は手で口元を押さえているから、周りの人には気付かれてない。



「やだっ! いきなり何すんのよ」



和葉はカッとムキになって立ち上がり、ほっぺたを押さえて睨みつけた。
すると、敦士も立ち上がって少し口を微笑ませながら、再び耳元に唇を近付ける。



「その反応、やっぱりかわいい。和葉ちゃんってさぁ、見た目とは違ってウブなんだね」

「敦士がいきなり変な事するからでしょ。こんな冗談許せない!」


「……いつも冗談じゃないよ、俺は」

「え……」


「ねぇ、少しづつ始めない? 友達以上の関係に」



会場内に鳴り響く音楽の隙間からセクシーな声が届けられた。
お互いほろ酔い気分だけど、敦士の瞳は見た事がないくらい真剣に。