ある日の夕方、学校から帰宅すると母親が一方的に怒鳴りつけているような声が玄関先まで響いていた。
父親の声は一切聞こえてこない。
だから、インターフォンを押す気になれなくて鍵を開けて家に入った。
母親は喧嘩をすると一方的に相手に突っかかっていく。
人の意見など二の次。
それが、母の昔からの悪い癖だった。
喧嘩をしていた過去の父親の時と同様、また嫌な雰囲気に。
もう二度と喧嘩は起こらないで欲しいと思っていたのに……。
今回の父親とは関係が良好だと思っていたから、まさかこんなに険悪なムードになるとは思いもしなかった。
家に上がると、両親の寝室の扉の光の隙間に耳を傾けた。
「わかってるの? そろそろ決断しないと時間がないのよ」
「……ごめん、まだ決断出来ない。お願いだから、もう少し待ってくれ。あと少しだけ」
「どうして私の気持ちを理解してくれないの。これが家族の一番の最善策なのよ? 私が間違ってるとでも言うの?」
「葉月。そんなに怒鳴ったら頭痛がもっと酷くなるだろうし、身体に障ってしまう」
ーーそう、ここ最近ずっと母親の体調が悪かった。
二人が結婚してから母親は仕事から帰宅する日は早くなったけど、ここ2週間はずっと寝たきり状態に。
頭痛が治らなくて仕事に行けないどころか、布団から起きられないとか。
最初は結婚する以前のように自由に外出出来なくなってストレスがたまっているから、ああやっておじさんにイライラをぶつけてると思ったけど、会話の雰囲気からすると違う様子。
お母さんは何らかの決断を迫っている。
時間がないって、どーゆー意味なのかな。
ひょっとして体調と関係があるの?
まさか、大病を患っているとか。
違うよね……。
それとも、また離婚を考えているの?
両親の喧嘩の後は、いつも嫌な結果が付いて回っていたから、今回もそうじゃないかと疑ってしまう。
でも、二人はまだ新婚だし、おじさんは理解があって素敵な父親なのに。
和葉は二人の会話の内容からは核心が掴めないけど、何となく嫌な話をしてるんだなと思いシュンとした。
扉の隙間から和葉が暗い顔を覗かせている事に気付いた父親と母親は、ハッと驚いて目を見開いた。
会話を聞かれた事を知ると、気まずそうに口を塞ぐ。
心の曇り空を心配した父親が和葉の元へ寄る。
「帰って来てたんだね。気付かなくてごめんね」
「……ううん。いいの」
「お腹が空いたよね。今からご飯の準備をするから、部屋で着替えておいで」
「うん……」
和葉は複雑な心境に陥ってるうちに、返事の声が小さくなっていった。
きっと、これが普通の家なら肉親の母親が寄ってくるのが普通だと思うけど、うちの場合は血の繋がってないおじさんが母親の役割を果たしている。
お母さんはおじさんの向こう側で、気まずそうに俯いてるだけ。
ここが、母親として不足してる部分だ。



