敦士は今日も性懲りもなく授業の合間の休み時間を狙って私のクラスに現れた。
私の隣の机の上に座ると、箱に入った個包装のチョコレートをスッと差し出す。
「和葉ちゃん! ねぇねぇ、このチョコ旨いよ。ちょっと食ってみ」
昨日は天国のような一日だった分、この瞬間まで敦士の存在などすっかり忘れていたけど、姿を見た瞬間逃げ回ってる現実を思い出した。
本当は彼が嫌いな訳じゃない。
ただ、人から追いかけ回されるのが苦手なのかもしれない。
だけど、素っ気なくし続けるのも少し気が引ける。
何故なら、しきりにアピールを続ける姿がつい先日までの自分の姿と重なっていたから。
拓真に口すら聞いてもらえなかった当初は寂しかった。
だから、たまになら相手をしてあげてもいいかなと思った。
「どれどれ。(ビリっ…パクッ…)あ、本当だ! 美味しい!」
ペースに合わせて小さく笑むと、彼は嬉しそうに話を続けた。
「実はさ、俺友達とバンドやってるんだ。今度ライブがあるから友達と一緒においでよ」
敦士はブレザーの内ポケットからライブのチケットを三枚手渡す。
和葉はチケットを手にすると、思わず目線が吸い込まれていく。
「なになに? バンドのライブチケット?『10/30(日)18:00〜start』って、もう今週末だね」
「バンドは五人組で、俺はギター担当。順番は五組中の三組目だから、スタート時間に遅れても平気だよ。仲良い友達と一緒においでよ」
「でも、まだ敦士とは親しくないし、極力知らない人には付いて行かないようにしてるから」
「あのさぁ、毎日のように会いに来てるのに知らない人はないだろ……」
「あはは、嘘だよ〜。後で友達に行けるかどうか聞いてみるね」
敦士は前向きな返事に安堵すると、軽やかな足取りで自分の教室へと帰って行った。
チケットを受け取ったけど、正直行くかどうか迷っている。
拓真に想いを寄せているのに、ライブと言っても他の男がいるところに行ってもいいのかな。
これは心の浮気に入る?
友達と一緒なら平気かな。
友達とライブを見るだけだし、別に敦士と二人きりじゃないし。
きっと裏切りには繋がらないよね。
和葉は気持ちに迷いが生じながらも、チケットを持って祐宇と凛にライブに行くかどうかを相談すると、たまたま二人の予定が空いていたので行ってみる事に。
バンドのライブなんて約半年ぶり。
ライブの日は農作業の日でもあるけど、ライブは夕方からだし、農作業が終わってから会場へ向かっても拓真の家からそんなに距離はないから、時間的にも間に合いそう。



