ドンッ……
傘で前方の視界が塞がれている和葉は、向かいから歩いて来ていた人物と身体が接触した。
和葉はすぐさま横に目を向けてぶつかった相手に軽く頭を下げる。
「あっ、ゴメンなさい」
「いえ……、大丈夫です」
ぶつかった相手は、薄ピンク色の傘で上半身が覆われていた。
一瞬だけ聞こえた高い声と、白いフレアのスカートと、ロングの茶色いレインブーツを履いている。
身なりからして女性と思われる。
女性は傘を軽く傾けて会釈すると、そのまま進行方向へ足を進ませた。
拓真はそれに気付いて一旦立ち止まると、すかさず和葉に言った。
「大雨で視界が悪いからもう少し気をつけて歩けよ! 前方を見ないから人にぶつかるんだろ」
「拓真が文句ばかり言うから注意が逸れてぶつかったんだよ」
「は? お前の注意力が散漫していたせいだろ」
「全部和葉のせいにしないでよ」
二人は顔を合わせるなり激しくいがみ合ったが、拓真の目線はぶつかった女性の方に吸い込まれていく。
拓真の微々たる表情変化を見逃さなかった和葉は疑問を投げる。
「何? どうしたの、知り合い?」
「……いや、何でもない。行くぞ」
急に現実に戻ったかのようにパッと目を逸らした拓真は、再び進行方向を目指した。
拓真の腕を組んだままの和葉も、傘から身体が外れないようについて行った。
一瞬だけ様子がおかしかったけど、その後はいつも通りの拓真に戻った。
だから、ぶつかった相手に視線を当てていた事を特に気にしなかった。
拓真は女性の傘を見た瞬間、何となくそうではないかと思っていたが、後ろ姿だけじゃ本人かどうか確信出来なかった。
だから見過ごしてしまった。
勇気を出して引き止めなかった。
ただ、すれ違う事しか出来なかった。
ーー和葉がぶつかった相手。
それは、拓真の幼馴染で好きだった人。
拓真が起こしたバイク事故によって、身体に一生の傷跡が刻まれたまま知らない街へと姿を消して行った、あの栞だった。



