ところが、メガネの二枚のレンズに私の姿を映し出している彼は、身体どころか眉一つすら動かさない。
生きているのか……。
それとも、私の美しさに見惚れてしまって軽く意識を失っているのか。
思わず体調を心配してしまうほど、顔は無表情だし身体は硬直している。
だから、こっちも次にどう反応したらいいかわからない。
今からメガネくんに何かを伝えてアピールを続ける?
でも、これ以上何を言えばいいの?
即反応があると思っていたから、その先のセリフまで考えてなかったんだけど。
趣味?
特技?
スリーサイズ?
それとも、反応を待った方がいいのかな。
残念ながら、お姉様の私には子供の扱い方はわからない。
ところが、和葉が拓真の前に立って7〜8秒くらい経過した頃、クールな表情を保ち続けた拓真はひと言だけ口を開いた。
「俺たち、一度会った事ありましたっけ?」
拓真はメガネを光らせながらそう言うと、和葉の横をすり抜けて手早く外履きに履き換えてその場から立ち去った。
和葉はプライドを傷付けられるどころか、まさかの他人扱いに言葉を失わせる。
えっ……、いま何て?
さっき一度顔を合わせて会話までしたのに、完全に他人扱い。
出会ったばかりだから顔くらい知ってるクセに知らないフリをするなんて。
ムカーッ!
なにアイツ、なにアイツ。
イヤミな奴〜〜〜!
しかも、さっきは偉そうにタメ口だったクセに、今度は敬語?
訳わかんない。
嫌味ったらしい言い方もムカつく。
ツンデレ好きの女の趣味がわからない。
でも、我慢我慢……。
二万円の為。
堪えろ堪えろ。
奴は所詮ガキ。
はぁ……。
二万円って想像以上に遠いなぁ。
賭け金が高額な理由がよくわかったわ。
奴が恋に落ちて凛から二万円を頂戴したら、さっさと捨ててやるんだからっ。
何処かで必ずこの仕返ししてやる。
こんな屈辱を味わったのは、生まれて初めて。
人一倍負けず嫌いの和葉は、怒りで震える拳を握りしめ、その場から立ち去る拓真の背中をキッと睨みつけた。



