「親は子供が生まれた瞬間から親になるけど、最初から自覚がある訳じゃない。子育てをしながら、そして子供に育てられながら親になっていく。お母さんは和葉ちゃんの年齢の時に出産したから、まだ人として未熟だっただろう。……でもね、青春時代を捨ててまで命を守ろうとした事をどうか忘れないで欲しい」
「お母さんの青春時代を捨てて……?」
「自身も子供だったはずなのに、自分の人生の時間を君に費やした。もし、和葉ちゃんがいま子を持つ母親になったら? 想像つくかな」
「……ううん。この年で母親になるなんて全く想像がつかない」
「最初から完璧な親なんていない。失敗を繰り返しながら親として成長していく。だから、例え子育てが上手じゃなくても、大切に残してくれた命に感謝しないとね。ここまで育ててくれたのは、お母さんの愛だと思って受け取ってあげてね」
おじさんの話に素直にコクンと頭を頷かせると、おじさんは席を立って寝室で横になっている母親の元へ向かった。
ダイニングテーブルに取り残された私は、おじさんの言葉を一つ一つ思い描いていたら、しばらく腰を上げる事が出来なかった。
確かに、昔から大切な人に嫌われるのが怖かった。
母親にさえ嫌われたくなかったから、家出をしても最終的には家に帰ってきた。
いつも寂しかったから。
いつも誰かに大切にして欲しかったから。
いつも愛されたかったから。
だから、交際していた男の愛が冷める前に別れを告げていた。
使い捨てカイロは、温もりのピークを超えたら、もう二度と同じように温まらない。
だから、まだ温かいうちにお別れしたかった。
そうすれば相手に嫌われずに済むと思ったから。
お別れをする最後の瞬間まで愛していて欲しかったから、無意識のうちに別れを告げていたのかもしれない。
きっと、それが男を使い捨てにしていた要因だったのだろう。
でも……。
ようやく本物の恋を見つけた今は、もう使い捨てカイロなんて必要じゃない。
もう一人じゃないから。
寂しくないから。
今は真の自分をちゃんと見ていてくれる人がいるから。
これからは、自分で恋心を温めていきたい。
結局、おじさんは最後まで心の中が大雨の理由を聞かなかった。
私の気持ちを汲んで家庭の味の味噌汁を出してくれるおじさんは、本当に大人だ。
今でも母親の事を浮気性でダメ女だって思っているけど……。
ステキな人と巡り合って羨ましいと思った。



