LOVE HUNTER



私がまだ幼かった頃、母親の隣で小さな手を伸ばしても、母親はコツンと触れた手に気付いてくれなかった。
手を繋ぎたいと意思表示したのに、私の想いが届かなかった。

だから、諦めて手を引っ込めた。



幼稚園で一生懸命描いた母親の似顔絵をプレゼントしても、母親は喜ぶどころかスマホ片手に返事をする程度。
褒めてくれる事を期待してなかったけど、せめて『ありがとう』くらいは言って欲しかった。



一番古い記憶がある頃から、母親が傍にいても一人ぼっちで寂しかった。
父親がいたりいなかったりの生活を繰り返していて、他の家庭とは大差のある環境に精神的にいつも不安定だった。

こんな空振りばかりの生活に慣れてしまったから、私も一線を引くように。




父親は足を引き返して席に戻ると、首を横に振った。



「おじさんの見解だけど、和葉ちゃんは愛の無い子に育ったわけじゃなくて、人一倍愛を必要としてる子なんじゃないかな」

「えっ……」



頭の片隅にもなかった返答が、四ヶ月以上も傍で見守ってくれたおじさんから言い渡された。



「じゃないと、こんな風に真っ直ぐに帰って来ない。和葉ちゃんは、父親になって間もない私と家族として上手くやっていこうとして積極的に歩み寄ってくれたよね」

「それは、おじさんが話をちゃんと聞いてくれるし、和葉の為に毎日心のこもった食事を作ってくれるから」


「きっと、それは家族として愛して欲しいからじゃないかな。家族の絆は双方の歩み寄りが必要なんだよ。その年で新しい父親を受け入れるのは簡単な事じゃない」

「……」


「それに、以前は頻繁に家出をしてたって聞いたけど……。それは、和葉ちゃんがお母さんの愛を確認したかったからじゃないかな」



話を聞いていてびっくりした。
おじさんの推測はほとんど正解だったから。


お母さんがあまりにも放ったらかすから、少し懲らしめてやるつもりだった。
でも、全然探そうとしないから、結局自分の首を閉めただけ。

これがお母さんの本心なんだなと思って、諦めがついた瞬間でもあった。



「でもね、和葉ちゃんがお母さんの元を離れない理由は、きっとお母さんにも合格点があるからなんじゃないかな」

「合格点……? 思い当たる節がないけど」


「もし、本当に見限っているのであれば、家を出て行く事も可能だったはず。どうかな、本当に合格点は見当たらない?」



おじさんに言われて少し考えてみた。

放置教育で娘に愛情を与える事なく、放ったらかしたまま男のところへ遊びに行っていた嫌な記憶だけが色濃く残っている。






でも……。
考え直してみたら一つだけ見つかった。


習い事とかシャレた事は一度もさせてくれなかったけど。
学校で使う手提げカバンは手芸屋さんに頼んで、自分で作ってくれなかったけど。
おかえりの挨拶なんて返してくれた事は、ほとんどないけど。



17年間、傍にいてくれた。
本当に面倒くさくて鬱陶しいと思うなら、きっと私を捨てていた。

だから、私自身も母親を捨てなかった。
もし私が捨ててしまったら、母親が一人ぼっちになってしまうから。



頭の中に一つの答えが導き出されると、答えを伝える準備が整った。



「お母さんが私を手放さずにいてくれた事かな」

「そうだね。育ててくれた事に感謝しないとね」


「母親としては失格だけどね」



思い返してみたら、いい事よりも悪い事の方が圧倒的に多かったからフッとため息が溢れた。