「どうしてあんたの指図を受けなきゃいけないの? 俺が現れた事で何か不都合でも?」
「俺はこのお姉ちゃんに用があるんだ。お前には関係ねぇ」
男は襟元を掴み上げている拓真の手を引き離して身を解放させた。
着ている黒いTシャツは、引っ張られた事によって襟元がたるんでいる。
男はウロたえている和葉の手首を再び掴むと、和葉は再び恐怖が訪れる。
「拓真、お願い助けて! このジジィに連れて行かれそうなの」
恐怖に駆られて切実な目でそう訴えたのだが……。
拓真は何故かきょとんとした目をぱちくりさせる。
「……まさか。お前が味噌汁を作ってもらってるおじさんって、コイツの事?」
「バカァ! 違うに決まってるでしょ。味噌汁を作ってくれてるのは、四人目の新しい父親よ」
「四人目の父親って……。お前って結構複雑な家庭の子なんだな」
「その話はまた今度でいいから! コイツ、私のストーカーなの。バイト先の常連客で嫌がってるのにしつこくつきまとうの」
「へぇ、コイツがお前のストーカー……。俺はお前という女に付きまとわれてるけど」
「私なら美人でとてつもなく愛らしいから、ストーカーされて逆に光栄でしょ。もう、こんな時に冗談やめてよ」
事の深刻が伝わっていないのか、拓真は気持ちに余裕があるように軽い冗談を言う。
飛び火が喰らわない程度の距離間で、野次馬達が転々と足を止めて見守っている。
「はぁん? この俺様がストーカーなんてどの口がほざいてるんだ! お姉ちゃんは今日から俺の女だ」
「嫌! 離してよ。死んでもあんたの女になんてならないから」
「ふんっ、生意気に盾突きやがって。俺はお姉ちゃんを探す為に人生の大事な時間を割いたんだ。だから、次はお姉ちゃんが俺の気持ちに応える番だ。恋愛はキャッチボールだろ」
唾が当たるほど和葉に顔を近づけた男の押し付けがましい理論がバカバカしく思えた拓真は呆れて笑う。
「プッ! ………それマジで言ってんの?」
「あぁん?! お前には関係ねーよ」
「おじさんさぁ、コイツが嫌がってんのに気付いてないの? 人の気持ちを無視して身勝手な理論を並べるなんて空気読めないんだね」
「おーおー。保護者がいないと何も出来ない未成年の青臭いガキが大人に向かって生意気な口を叩きやがって。ちょっとばかし痛いお仕置きをしないとな。手始めに東京湾のど真ん中に沈めてやろうか?」
和葉の手首を掴んだまま上目遣いした男は、サングラスの隙間から拓真をギョロッと睨みつけた。
男はクールな表情で挑発を繰り返す拓真を、少し脅かすつもりで言った。
一方、青あざになるほど手首を強く掴まれている和葉は、二人の対立に口を出せない。



