「両親は二人とも弁護士でね。拓真は両親の期待を背負って幼稚園から私立の名門校に通っていたの」
「へぇ〜。意外」
「でもね。両親の職業柄人から怨みを買う事があったから、子供達には自分で身を守れるように格闘技を習わせていたの。他にも、ピアノ、書道、バイオリンをね」
「うんうん、それで?」
「勉強と習い事の両立で自由が無い生活を送っていたから、そんな毎日が窮屈だったのかもしれないね。非行に走った原因はそこにあったんじゃないかと」
「自由が欲しかったのかな……。私は幼い頃から自由奔放に生きてきたから、逆に気持ちがわからないかも」
私は母親に見放された放置教育で。
拓真は両親から期待を背負った窮屈な生活。
私達はあまりにも対照的だから、愛を知らずに育った私からすると贅沢な悩みにも感じる。
でも、拓真には自由が奪われた生活が耐えがたかったんだね。
「でもね、あの子が更生出来たのは幼馴染の栞ちゃんのお陰なんだよ」
「栞ちゃん……?」
知らない女の名前が出た瞬間、胸がズキっと痛んだ。
その上、拓真の過去に深く関わっていると思ったら、小さな嫉妬心が沸き起こり始める。
「栞ちゃんは優しくて気立てが良くて、とても綺麗なお嬢さんだった。実はお爺さんの介護もお手伝いしに来てくれたのよ」
「へぇ……」
過去とは言えども、お婆さんがベタ褒めしている時点で何故か自分のテリトリーを侵されたような気持ちになった。
「栞ちゃんは誰よりも拓真の更生を願ってた。だけど、去年暴走族の仲間と出かけようとしていた拓真を引き止めようと思ってバイクの前で立ちはだかったら、拓真がハンドル操作を誤って轢いてしまってね」
「えっ……」
「幸い命に別状はなかったけど、左ふくらはぎに15センチほどの大きな傷を負ってしまった。それが結構深い傷でね。医者からは傷跡が一生残るかもしれないって」
「左ふくらはぎなんて、スカートの下から見えるところなのに……」
一瞬、ふくらはぎの傷跡を想像した。
隠そうと思えばいくらでも隠せる場所かもしれないけど、一生隠して暮らさなきゃいけないと思うと話は別に。
私ならきっと短いスカートが履けない。
スカートの長さで隠すか、スカートを諦めてパンツにするか。
同性の立場から考えても隠す事しか考えられない。
きっと、海やプールや温泉に行くことさえ躊躇ってしまうだろう。
素足が出せない生活に耐えられるか、今の自分には自信がない。
お婆さんは、まるで遠くを眺めるような目つきで農作業中の拓真を見つめている。
一方の拓真は、過去の話をされている事も知らずに作業をせっせとこなす。



