「なぁ~んてね。ちょっと期待しちゃった?」
「……え」
「想像通りになんてさせないよ、……バーカ」
拓真は耳元で温かい息を漏らしながら低い声で意地悪を言うと、力強く掴んでいた手首を解放してベッドから降りて部屋から立ち去った。
タッ……タッ……タッ……タッ……パタン
部屋の扉が閉まると、室内はまるで何事もなかったかのように静寂の空気に包まれた。
すっかり拍子抜けした和葉はベッドから身体を起こして、破裂しそうになっていた胸に拳を当てた。
心臓は驚くほど恋のリズムが止まない。
燃え上がるように熱くなった頬は、鏡を見なくても赤面してるのがわかる。
さっきは本当に襲われるかと思った。
ハジメテじゃないのに、最後まで心の準備が……。
和葉は気持ちを落ち着かせるように深く深呼吸しても、コントロールが効かないほど身体中が興奮していた。
私はどちらかと言うと男性経験が豊富な方。
きっと拓真もそれなりの経験があるから急に襲いかかっても取り乱そうとしなかったのかもしれない。
場所は彼の部屋のベッドの上。
若い男女二人きりの状況。
身体を密着させていたはずの二人の間にラブチャンスが訪れたけど、何故か何も起こらなかった。
拓真はちょっと驚かそうとしてただけ。
私への愛情のカケラも女としての興味もないなんて……。
はぁ……、ショック。
期待して損した。
せめて眠っている間にチューでもしておけば良かった。
でも、私がどんなに迫っても拓真は好きな人じゃないと雰囲気に飲まれないのかな。
和葉は落胆していると、目線の先にはちょうど拓真の枕が。
ストレスの捌け口が見つからなかったので、右手で枕を鷲掴みにした。
「もーっ。枕ちゃんのバカバカー! せっかくの大大大チャンスを……」
和葉はお気に入りの枕を右手で持って、左手をグーにしてパンチで枕に八つ当たりをした。



