「拓真は何もわかってないっ! 和葉はあの子に怪我なんて負わせてないのに、拓真はあの子の事を信じてた」
「それは……」
「どうして和葉だけが厄介払いなの? 拓真なら信じれると思っていたのに。人に裏切られると誰を信じていいんだかわかんなくなる。信じてくれない拓真なんて大嫌い!」
和葉は胸の内に留まっていた想いを吐き出して二度目の大嫌いを言い渡した。
もちろん、本音じゃない。
勢い余って言ったもの。
だけど、それ以外は全て今の言い分だった。
今も昔も、一人が怖いから人を信じようと思っているのに、そう思う度に裏切られる。
だから、信じる事が怖くて仕方ない。
信じてもらえない事は、どうしようもないほど窮屈で苦しいのに……。
全身の力を振り絞って心境を吐き出した和葉だが、廊下側から流れ込んできた風で揺れた髪が頬に触れた瞬間、まるで何かが破裂してしまったかのように瞳から涙が流れ落ちた。
顎先へと滴り落ちた涙は、真実を伝えたいと願う分量だった。
和葉は再び拓真から離れようとして腕を強く引いた。
ところが、拓真は掴んでいる腕をグイッと引き寄せて互いの香りをぶつからせる。
「お前の爪、俺が切り落としたから」
「えっ……。爪?」
『ごめん』のひと言が届くと思っていたけど、予想外のセリフに目が点に。
「そんなに短い爪で引っ掻いただけじゃ、余程の恨みが募っていない限り深い傷を負ったりしない。それだけは確信している」
「……」
「『やめてくれ』と言ったのは、お前が今こうやって葛藤しているようにあいつ自身にも色々気付いてもらいたかったから」
「えっ……」
「現場を見てないのに互いの言い分を聞いただけで物事を判断したら誰の為にもならないだろ」
拓真はすっかり惑わされてしまった和葉の心が何処かへ行ってしまわぬように、強い眼差しを向けた。
「一つ聞きたいんだけど、あの時は何に怯えていたの?」
「……拓真があの子の肩を持っていたから誤解を解きたくて」
「別にあいつの肩を持ってないよ」
「でも、目の前で傷跡を見せつけられたら、誰だって彼女の言い分を信じちゃうでしょ」
拓真は暗い顔をしている和葉の顔の高さまでしゃがむとこう言った。
「俺はこの目で真実を見ない限り信じない。それに、自分が間違ってなければムキになって反論する必要はない。いつも通り堂々としてればいいと思う」
「うん……」
「誤解が解けたからこの話はもう終わり」
拓真は口角をキュッと上げて和葉の頭をグシャグシャと撫でた。
髪に触れた手は、大きくて優しくてほんのり温かくて。
何度も嗅ぎたくなるような中毒性が高い大好きな香りが、一番近いところから漂ってきた。
誤解が解けて安心したら、一度止まったはずの涙が不揃いに溢れ落ちる。
私は大事な事を忘れていた。
信じていないのは拓真じゃなくて、自分の方。
信じてもらえない事が怖いと思うばかりにバリケードを張り巡らせていた。
でも、それは正解じゃないと彼が教えてくれた。
彼はツンデレ。
普段は意地悪だし、バカにしたように見下すし、冷たく突き放す割合の方が圧倒的に多いけど……。
本当はとても優しくて思慮深い人だ。



