コイツ、正気じゃない。
拓真が彼女の言い分を鵜呑みにしたら、私は完全に悪者になる。
私が気に食わなかったとしても、こんなやり方は酷過ぎる……。
「違う……。傷付けたのは私じゃない。拓真。信じて、お願い」
そう言って切実な目を向けた。
どうか、彼女の嘘を信じないで欲しい。
他人にはどう思われても構わないけど、拓真にだけは信じてもらいたい。
和葉の気持ちは奈落の底へ追いやられているが、彼女の更なる口攻撃はまるでとどめをさすかのように重ねて襲いかかる。
「ひどい……。私に怪我をさせておいて嘘をつくなんて」
「えっ」
「拓真に好かれたい気持ちはわかるけど、被害者の私が嘘をついてるとでも言いたいの?」
「何言って……」
「さっきあなたが掴みかかった時に腕を引っ掻いたじゃない。それを少しも悪いと思ってないの? どうして嘘をつくの? 」
「はぁ?! ずるいのはアンタだよ。しかも、私から呼び出してないし、引っ掻くどころか身体の一部分すら触れてないでしょ」
二人の言い分はバラバラの上、拓真自身も現場を目撃していない。
だが、この状況を放っておくわけにはいかなかった。
「お願いだからやめてくれ……、和葉」
彼女の言い分が飲まれた瞬間、真実は深い闇へと葬られた。
廊下で三人を横切っていく生徒達は、三角関係がもつれてしまったかのように激しく言い争っていた和葉達に興味を湧かせて目を止めるが、和葉の視界には何も入って来ない。
最悪……。
どうして、彼女の嘘が見抜けないの?
どうして、私の意見を聞き入れてくれなかったの?
拓真の中で嘘が真実として成立しちゃったら、私どうしたらいいかわかんないよ。
でも、まだ望みは捨ててない。
真実を伝え続ければわかってくれるんじゃないかと思ってる。
和葉は再び説得に取り掛かろうとして拓真の手をグイッと引いて、真剣な目で訴えた。
「それ、どーゆー意味? どうして真意を追求しようとしないの? そもそも私から呼び出してないし、掴みかかってもない。怪我なんて負わせてないよ」
ムキになって正論を言い並べても、拓真は無表情で口を塞いだまま。
まるで、人形に喋っているかのよう。
だから、これ以上手を尽くしても無意味に思えてきて余計腹立たしくなった。
「どうして私を信じてくれないの? 拓真のバカ! 大嫌い! もう知らないっ」
和葉は悔しくてポロポロと泣きながら走り出して、拓真の肩にわざとぶつかりこの場を後にした。
私は何一つ間違ってない。
それなのに誤解は解けない。
どうして。
どうして、信じてくれないの………。
和葉は溢れんばかりの涙が止まらなくなり、ひと気の少ない非常階段にぺしゃんと座り込み、口元に手を添えて咽び泣く声を押し殺した。
私を加害者に仕立て上げた彼女に、無性に腹が立った。
だけど、それ以上に腹立たしく思ったのは、素直に向き合ってくれていたはずの拓真が私を信じてくれなかった事。



