隣りにいた不破くんが、いきなり視界を遮るように前に立ちはだかった。
しかも、キッパリと断ってくれてる。
スカウトだなんて、お世辞だろうけど。
それでも、芸能界に興味はない。
というより、誰かに見られていたいという願望はむしろない。
それよりも、自分の眼で好きなものを好きなだけ見ていたいから。
「無駄話は止めましょ。収録しに来たのに」
「あ、そうだった。じゃあ、準備して?」
大人の鋭い視線を彼が遮ってくれた。
それだけでも有難い。
「ひまり、そこら辺に座ってて」
「……うん」
「橘さん、何か飲む?」
「あ、大丈夫です」
「俺、水」
「はいはい」
山本さんが不破くんにミネラルウォーターのペットボトルを手渡した。
しかも、山本さんの手からお茶のボトルを奪い取り、それを私に渡した。
……貰っていいのかな?これ。
「よかったら、飲んでね」
「……ありがとうございます」
彼がブースと呼ばれるガラスの向こうの部屋に入ると、山本さんがキャスター付きの椅子を転がして隣に来た。
「芸能界に興味ない?彼と一緒に仕事できるよ?」
「………特に興味は」
苦笑しながらやんわりと断ると、食い下がるように名刺を差し出す。
「この前渡したと思うけど、改めて。来栖 湊のマネジャー兼SëIの担当もしてます、山本です。興味が湧いたらいつでも連絡して」
「………あ、はい」
突き返すのもどうかと思い、とりあえず受け取ると、ガラスの向こうから物凄い視線を向ける人物が一人。
「歌手じゃなくても、タレントでもいいし、モデルでもいいし。お芝居に興味があるなら、俳優部門でも大歓迎だから」
「……はははっ」



