彼女に楽器を弾いて欲しいのかと尋ねれば『ううん』と返って来た。
楽器でないなら、歌って欲しいのか?

本当にいつも何を考えているのか分からない。
絵を描くことが好きな子だから、もしかしたら音楽に興味がないのかもしれない。
だとしても、『SëI』くらい知ってると思うんだけど。

『星のように降り注ぐ運命……』

試しに『SëI』の曲を口ずさんでみた。
すると、すぐさま驚いた様子で振り返った。
『SëI』の曲は知ってるらしい。

しかも、視線を逸らすこともせずにじっと見据えてる。
くりっとした大きな瞳に自分が映る。
ほんの少し顔を近づけたら、その瞳が僅かに揺れた。
その瞳が、俺に『やっぱり同一人物なのね』と言ってるみたいで。

彼女をブースの中に閉じ込めた。
俺から逃げれないように。

「俺の素顔知って何がしたい…?」
「別に、何も……」
「こういうこと、期待してんだろ?」
「ッ?!……別にそんなっ」

彼女の真意が知りたいわけじゃない。
俺に好意を寄せてようが無かろうが、そんなことはどうでもいい。

隣りの席の『不破くん』が『イケメン王子』で、しかも『SëI』だと知られてしまったことへの焦りなのか。
いつかはバレるだろうと思っていた。
覚悟はしていたけど……。

この俺を映す大きな瞳は、絶対視感という超人的な能力があるらしく。
その能力のせいでバレたといっても過言じゃない。
だから、幾ら言い訳を並べようが、きっと彼女には通じない。

俺が『SëI』かどうかを調べに来たのかと聞けば、知らなくてもいいと言う。
それでも、彼女の瞳が『知りたい』と言ってるのは分かる。
じゃあ、何が知りたいんだ?