10月中旬。
ひまりの面接入試が近づいて来て、彼女は少し緊張している様子で、見るからに表情が険しくなって来た。

彼女にとって、今が最初の壁なんだと思うから。
俺は彼女が思いっきり実力が発揮できるようにアシストするだけ。

放課後、俺の自宅ではなく、彼女の自宅へ二人で向かう。
今日は協賛画材が届く日になっていて、それの荷解きを手伝うことになっているからだ。

最寄り駅からひまりの自宅を目指して歩きながら、彼女の手を掴む。

「ひまり」
「ん?」
「俺、大学決めた」
「どこにしたの?」
「テンプル大学」
「どこ、それ……?アメリカの大学?」
「ん」
「………そうなんだぁ」
「ペンシルベニア州のフィラデルフィアにある州立大学」
「………そっかぁ」

俺の言葉に肩を落とし、明らかにシュンと消沈したのが見て取れる。
そんな彼女の手を引き寄せ、腰に手を回し、距離を詰めて。
彼女の耳元にそっと囁く。

「の、TUJに通うつもり」
「TUJ?それって、なぁに?」
「Temple University Japan 単位互換プログラムってのがあって、日本校に通いながら、アメリカの大学での単位が修得出来るシステムのことだよ」
「え?……日本にそういう大学があるの?」
「ん」
「何か聞いただけで凄そうだね」
「で、それのダブルメジャーにしようと思って」
「ダブルメジャーって?不破くんの日本語、難し過ぎるよ……」
「フッ」

彼女の頭をポンポンと優しく撫でて、詳しく説明を始めた。