事前に秘書の方から、翻訳機を持たせると聞いていた通り、彼はポケット翻訳機を手にしている。
それを使って簡単な挨拶を済ませると、すぐさま本題へと入った。

世界の画材メーカーでは現在、新素材の開発が進んでいて、色んなメーカーが競い合っているらしい。
彼の会社もその一つで、数年前からアクリル絵の具と鉛筆の開発に力を入れているという。

何故、私に画材提供したいか、という本当の狙いは、私の鉛筆画にその可能性を見出したからだという。

数年前からずっと私の鉛筆画を追っていたという。
表現力はもちろんのこと、多種類の鉛筆を駆使している点やそれらを通して更なる成長を期待しているという。

画材提供はあくまでも表向きの契約で、実際は開発に協力して欲しいという。

突然開発と言われても、金属製のバットで殴られたようなもので。
右も左も分からないほど、脳内は真っ白。
アーロン氏が求めてるものを私が出来るとは思えない。

苦笑しながら対応に困っていると、突然手を握られた。

『どうしても、新商品の開発を成し遂げたい』と。

ライバル企業と近年激しい競争をしていて、その会社が新素材のボールペンのインクを開発したらしく。
今年の売り上げはその企業に負けそうだという。

しかも、その会社の副社長という人物が、自分の婚約者を寝取ったらしく。
どうしても負けたくないと力説された。

婚約は解消したが、開発は止めれない。
むしろ、その開発に全力で挑戦中だと言われては、断る言葉が見つからず。

何て言っていいのか困り果てていた、その時。
彼がグッと顔を近づけ耳打ちして来た。