無言で頷いたのは通常仕様だけど。
何かが違う気がする。
何だろう?

箱から数本筒状の資料を抜き取った彼は、不思議そうに私を見ている。
………いつもの彼だ。
何が違うように感じたんだろう?

「ごめんね」
「………」
「え?一緒に運んでくれるの?」
「………」
「助かる、ありがと」

指でジェスチャーした彼は、何事もなかったように階段を下りてゆく。
そんな彼を見下ろし、脳内の情報をすり合わせていた。

**

「失礼しまーす」

不破くんと共に進路指導室に入る。
中には誰もおらず不在のようだ。

教卓の上に資料を置いて、メモをつけておく。
『2年B組、資料の返却です。有難うございました』

「不破くん、帰ろうか」
「………」

彼と一緒に部屋を出て、すぐ横の玄関へと歩を進める。

「不破くん、ちょっと待ってて」

下駄箱へと向かう彼を横目に、玄関脇にある自販機で緑茶を購入。
炭酸飲料とかだと喉に悪そうだから、必然と緑茶に手が行ってしまう。

急いで下駄箱へと戻ると靴を履いている彼がいた。

「はい、これ良かったら。さっきのお礼」
「………」

一瞬戸惑った様子を見せたが、無言で頷き、私の手から緑茶を受け取った、その時。
絡まっていた脳内の情報がカチッと嵌った気がした。

だって、彼の指先。
正確には爪なんだけど、あの日、ナンパ男から助けてくれたイケメン王子とそっくり同じで。
それと、さっき階段で助けてくれたあの手。
背中を支えるように添えられた手のぬくもりと。
決定打は、『………平気か?』のセリフと声質だ。
それと追加で補足するなら、シャープなフェイスラインと色気のある薄い唇。

私の絶対視感が同一人物だと弾き出した。



不破くんが、………イケメン王子なの?