何だ、あの眼つき。

俺の視線に気が付いた奴は、逸らすことなく射竦めてる俺を軽くあしらうかのように挑発するような視線を向けて来た。
いい度胸してんな。

そりゃあ、年齢でいったら俺の方がずっと若くて子供扱いなんだろうけど。
そんなことを気にしてられねぇ。

目の前で自分の彼女に手を出そうとする男がいるんだから、視殺する勢いで射竦めても問題ないだろう。

俺の存在を知る由もないだろうが。
俺がこうして敵対心丸出しで見てんだから、気付いてもよさそうなもんだ。

俺が視線を逸らさずに顔を少し傾けた。
『やれるもんならやってみろ』と言わんばかりに。

Aaron Camille は冷笑し、椅子の向きを変えて俺に背を向けた。

そう来たか。
俺を無視するってわけか。

ひまりとの時間を邪魔されたくないんだろうけど。
彼女が自分以外の男と二人きりで会うこと自体、不本意だっての!

ベートーヴェン ピアノソナタ 第14番 「月光」
明るめなラウンジの雰囲気とは不釣り合いな曲をチョイスする。

二人の会話が気になって仕方ない。
乱入してぶち壊したい衝動をグッと堪える。

留学して欲しくないけれど、彼女の人生に口出しは出来ないから。
黙って見守るくらいしか俺には出来ない。

ただ、援助や協力して欲しいというなら、俺を頼って貰いたい。
他の誰でもなく、この俺に。

美術のことなんて何も知らない。
だから、手助けするにも限界があるし、それこそ彼女の才能を引き出すことなんて出来やしない。
悔しいけれど、彼女に必要なのは俺ではなく、Aaron Camille なのだろう。

視界の隅に彼女を捉え、溜息が漏れ出した、次の瞬間。
男の陰にひまりが重なった。
……ひまりの頬にキス?!