(なんで……なんであの子が……っ!)


昨日、部員たちの中心にいたのは、未恵だった。
よりにもよって、どうしてあの子なんだろう。


どうしてあの子が、水泳部の次期エースなんだろう。
千夏でも他の子でもいいのに、なぜ無邪気な笑顔であんなことを言える子なんかが私がいた場所に立っているんだろう。
考えても仕方がないのに、思考も心も黒いもので覆われていく。


(誰か……誰か助けて……)


逃げ道も、逃げ場所もない。
学校にいれば、大半の人が私のことを知っている。


私が逃げたくても、周囲が現実から目を背けさせてくれない。
今は陸にいるのに、息が上手くできない。
選手として練習に励んでいた時にはあんなにも苦しかった水の中の方が、きっとずっとラクだった。


心にも体にも酸素が足りなくて、嗚咽が漏れそうだった瞬間。

「うわっ……!」

校舎の角を曲がった私は、人とぶつかった。


思わず顔を上げると、太陽に透けるような金色が視界に入ってきた。
目を見開いた金髪の男子が、困ったように微笑む。


「また泣きそうだな。……おいで」


彼はそう言うと、声も出せない私の返事も聞かずに私の手を引っ張った。