「どうしたの?」


隣のクラスの千夏とは、体育の授業のたびに顔を合わせている。
うちの学校は、男女に別れて二クラス合同で体育をする。
そのため、週に三回は一緒に授業を受けることになるのだ。


だけど、私はもうずっと体育は見学しているし、彼女も以前のように話しかけてくることはなかった。
恐らく、気まずかったのだろう。


幸い、同じクラスに水泳部員がいないことはありがたかったけれど……。体育の授業だけは千夏や他の部員とも顔を合わせるせいで、逃げ出したくなるほど嫌だった。


廊下ですれ違うくらいならなんとか避けられても、授業となれば避け続けることは不可能だったから……。


「美波……?」

「退部届を出したから、コーチに挨拶に来たの」


競泳水着を着る彼女を直視できなくて、曖昧に笑って小さく告げる。
思っていた以上に声がぶっきらぼうになって、自分でも驚いた。


「そう、なんだ……」

「私、もう行かなきゃ」

「えっ?」

「コーチ、失礼します」


コーチが「うん」と頷いたのを確認し、千夏を横切ろうとした時。

「えっ? 牧野先輩!?」

甲高い声が、鼓膜を突いた。