選手生命を絶たれた苦しみと痛みを知っているからこそ、きっと同じような境遇に立たされた人の気持ちがわかる。
それは、たぶんいつか輝先輩自身の強みになる。


輝先輩に置いていかれたなんて、今はもう思わない。
だって、彼が自分の苦しみや痛みと向き合ってきたことがわかるから。


「だから、美波も大丈夫だよ」

「え……?」

「今は未来に希望が持てなくて、まだ自分の置かれた状況を受け入れられないかもしれない。つらくて苦しくて、泳げる奴らが羨ましい気持ちもあると思う」


輝先輩の言葉が、心を優しく包み込んでいく。


「でも、それでいいんだ。そういう気持ちを持ってることは当たり前だし、羨んだり憎くなったりするのもおかしいことじゃないから」


まるで私の気持ちを代弁するように。
汚い部分も、醜い部分も、丸ごと全部肯定してくれる。


「だから、そんな風に思う自分を否定しなくていい。そういうところも受け入れていけば、意外と少しずつ傷は癒えていくから」


今はまだ、彼の言うことをすべて信じることはできない。


「俺もそうだった。時間が解決してくれたこともたぶんあるけど……でも、結局は自分の汚い感情も受け入れられるようになって、ようやく苦しみから抜け出せた」


乗り越えた人間と、まだ足踏みをしている人間じゃ、天と地ほど違うと思うから。