「行くか」

「うん」


いつもなら繋ぐ手をどうすればいいのかと一瞬悩んだけれど、すぐに輝先輩が左手を差し出してきた。
やっぱり涙が込み上げてしまいそうになる。


なんとかこらえて微笑み、おずおずとその手を握った。
初めて手を繋いだ時よりも、ずっとずっと緊張して。だけど、あの時よりももっと嬉しかった。


あいにくの曇り空からは、今にも雨が降り出しそうだった。
予報では雪だと言っていた。
ただ、東京の中でも私たちが住んでいる地域はあまり降ることがない。


ところが、神社に着くまでにも、空はいっそうどんよりとしていく。
その様子を見ていると、まるでバッグに入れている折り畳み傘が出番を待っているように思えた。


神社は思っていたほど混んではいなかった。
屋台からは、香ばしい匂いやベビーカステラの甘い匂いが漂ってくる。


「腹減ってない?」

「空いてる」

「お参りのあとで食べるか」

「うん」

「今一番食べたいのは鍋だけど」

「あ、ちょっとわかるかも」


まだ少しだけぎこちなさはある。
それでも、こうして話していると笑みが零れることもあって、会った時と比べればいつもの雰囲気に近づいていっている気がした。