誰かが自己ベストを出したことを教えられ、呼吸の仕方を忘れてしまったかのように胸が苦しくなる。


「すごいじゃん!」

「さすがうちの新エース! 未恵(みえ)がいれば、うちの部は安泰だね!」


それでも、なんとか足に力を込めていた私の耳に届いたのは、部員たちの賞賛や激励混じりの言葉と、後輩の名前だった。
もともと実力があった彼女は、入部当時からコーチや部員たちから期待されていたようだったのは知っている。


だけど――。

「美波があんなことになってから、どうなるかと思ったけど……。今年の夏も、うちらで美波の分まで頑張ろう!」

次の瞬間、誰かが口にした言葉が胸の奥を鋭く突き刺した。


(わかってる……。わかってるけど……)


心の中で繰り返してみても、本心では納得なんてできない。
〝あんなこと〟さえなければ、あの場所でみんなに囲まれていたのは私だったのかもしれない。


そんな気持ちがふつふつと湧き上がり、もう選手として泳げないことに改めて絶望して……。後輩の新記録を喜べない自分自身に、ひどい嫌悪感を抱いた。