「でも、真菜は専門に行くんでしょ」

「製菓のね」

「将来はパティシエかぁ」

「まだ気が早いよ! 受験も終わってないのに」


真菜は肩を竦めたけれど、夢や目標があるというだけですごいと思う。
しかも、スイーツ好きの彼女らしい進路だ。


夢や目標がなにひとつなくなってしまった私から見れば、それだけで彼女が何歩も先を歩んでいるように感じた。


「美波?」

「え?」

「聞いてる?」

「あ、ごめん……」

「どうかした?」

「えっと……進路、どうしようかなって……」


焦りを隠せない私に、真菜が明るく笑う。


「とりあえず進学でしょ? 行きたい大学がなくても、近いところとか書いとけばいいんじゃない? 先生も『別に確定じゃなくていい』って言ってたし」

「そうだよね……」


彼女は励ましてくれているだけ。
それなのに、不安と焦りに包まれてしまったせいで上手く笑えない。


むしろ、真菜の余裕さに追い詰められていく気分になった。


「それより、なんの話だっけ?」

「ああ! 昨日のバイト終わりにまたみんなでスイーツ食べに行こうって話してて、もうすぐ秋だしモンブランとかどうかなって。美波も行こうよ」

「うん」


頷いたけれど、私の心の中はスイーツなんてどうでもよかった。
それよりも、明日までに提出しないといけない進路希望調査書のことばかり考えてしまう。


バイトが始まってもそのことが頭から離れなくて、ちっとも楽しめなかった。