屋内プールに繋がっているドアを潜ると、まずは更衣室がある。
決して広くはないけれど、ふたりのマネージャーがいつも掃除をしてくれている。
おかげで、ロッカーも床も市民プールなんかよりも清潔に保たれていた。


更衣室の奥にあるドアを抜ければ、プールサイドに繋がる道へと出ることができ、練習の前後にはその途中に設置してあるシャワーを浴びるのが決まりだ。


浴びるといっても、水着のまま。
仕切りなどもないから何分も時間をかけることはないものの、シャワーブースにはいつも順番を待つ部員たちがいた。


ただ、今日の私は制服だ。
プールに入ることもシャワーを浴びる必要もない。


たったそれだけのことが、まるで初めての場所に足を踏み入れる時のような不安を抱かせ、ここで引き返したくなるくらいには足が動かなかった。


聞こえてくるのは、コーチや部員たちの声と水の音。
バシャバシャと響く水音からは、しぶきが上がる様を想像させられ、懐かしくも歯がゆい気持ちに包まれた。


「やったじゃない! 自己ベストだよ!」


しばらく立ち尽くしていると、唐突にコーチの明るい声が響いた。