「手、繋ぎたい」


素直に言われて恥ずかしいのに、どうしようもないくらいにドキドキして心臓が飛び出してしまいそうなのに。


「ッ……う、うん……」


私はわずかにためらいながらも、右手を出していた。


一瞬だけ戸惑うようにして、おずおずと手のひらが重なる。
優しく握られた刹那、胸の奥がきゅうぅっと締めつけられた。


帰り道では、くだらない冗談も他愛のない会話もなかった。
ただ、黙ったまま電車に揺られていた。


それでも、繋いだ手だけはずっと離れなくて、緊張しているのに嬉しかった。
家の前まで送ってくれると言った輝先輩は、「次はデートな」と小さく呟いた。


今まではただの約束だったものまで形が変わることに、また鼓動が大きく高鳴る。
遊ぶ約束がデートの約束になると知って、なんだかソワソワしてしまった。


夏の夕日はもうほとんど見えなくなって、遠くに月と星が輝いている。
藍色とオレンジが混ざった空は、友達から恋人になったばかりの私たちのようにも思えた。