「このコートは、ボスのお下がりなのです。すごく気に入っています。だから、着古してしまって生地が薄くなっているのです。それに、テカテカにもなっています」

 沈黙に耐えきれず、どうでもいいことが口から出ていく。

「このコートを公爵閣下にお貸ししたくても、公爵閣下には小さすぎますよね……」
「ミユ、すまなかった。きみに言ったこと、あれは違うんだ」

 コートの話をしつこくしていると、彼がさえぎってきた。

「ほんとうにすまない。どうしてあんなことを口走ってしまったのか、自分でもいまだにわからない。イーサンに言わせれば、おれがきみの気を惹きたくてあんなことを言ったのだろうと……。とにかく、すまない。謝罪してもしきれない」

 彼は、大きな体を小さくしてペコペコと頭を下げ始めた。