「ミユ、乗馬の経験はあるか? もしもなければ教えよう。人間(ひと)のレディに贈るものといえば、花か馬くらいしか思いつかなかったのだ。とはいえ、花も馬も贈るのは今回が初めてだが」
「公爵……」

 わたしにそう告げた彼の声は、いままでにないほどやわらかくてやさしかった。

 そのとき、胸の辺りから大きな塊がせり上がって来た。と認識したときには、目に涙がブワッと溢れ、ドバーッと頬に流れ落ちた。その勢いは雨季の滝のようで、止めようとしても止めることが出来ない。

「ミ、ミユ? ど、どうした?」
「ほらーっ、閣下。だから忠告しましたよね? ふつうのレディは、馬を贈られてもうれしくなどありませんよ、と」
「ああ、くそっ! そうか。すまない。すまなかった、ミユ。だったら、きみの欲しい物を贈ろう。だから、どうか泣き止んでくれ」

 両目が涙でボワボワしている中でも、公爵の慌てふためいている姿を見ることが出来る。

 このときの公爵の慌てぶりは、一生涯忘れることはない。