「あの、公爵閣下。その、申し訳ありませんが近いのです」
「なんだと?」

 まだ抱き寄せられたままなので、控えめに訴えた。

「その、ほんとうに申し訳ありません。距離が近すぎて……」

 ポカンとしている彼の銀仮面を見上げつつ、さらに訴えた。

「す、す、すまない」

 そうと気がついた彼は、突き飛ばすような勢いでわたしを開放してくれた。

 銀仮面に覆われていない顔の部分は、真っ赤になっている。

「その、なんだ。きみが転んでしまわないようにだな、とにかく、すまなかった」
「ブルルルルル」

 公爵の言葉の最後の方は、馬の鼻を鳴らす音にかき消されてしまった。

「なっ、レディ? 二人はお熱いだろう? 昼日中からイチャイチャして、見ていられないよ」

 イーサンのソプラノボイスがきこえてきた。

 公爵の大きな体で見えなかったけれど、彼の向こう側に立っていたのだ。