せっかく差し出してくれている手を拒む理由はない。

 その大きくて分厚い手を取った。

 やはり、すごくあたたかい。

 走り去る馬車に手を振りながら、まだ馬車に乗っていたかったと思った。

 公爵ともう少し話をしたかったと思った。

 それから、そんなことを思っている自分に驚いてしまった。

 ダメダメ。公爵は、結局わたしを「お飾り妻」と思っているだけ。ちょっとした気まぐれよ。

 そもそも彼は、姉のことしか想っていない。

 ちょっとかまってもらったからって、勘違いしてはダメ。

 自分に気合を入れる為、おもいっきり走った。

 北街区にある王立公園から、ほんとうの目的地である西街区の「何でも屋」の事務所まで。