ハニーシガレット ~バレンタイン番外編~

~数年後~


「あの時の事、薫くん覚えてる?」


2月14日、懐かしみながらあの日の事を話すあたしに隣に座る薫くんは「まあ」と短い返事をした。


「あの頃のあたし、健気だったよね」

「健気っていうかなんと言うか、だろ」

「ちょっとしつこ過ぎんだろって?」

「マジであんだけ振ってもあきらめない人柑奈くらいだから」

「でもあのへこたれない精神が今のあたし達を作ってるわけじゃん!」


「感謝してくれてもいいんだよ?」とふざけて言えば「調子乗んな」とシラケた瞳を向けられる。


「あの時のあたし、可愛かった?もしかしてあのバレンタインでコイツのこと好きだなーって思ったりした?」

「は?」

「わ、そんな睨まないでよ」


ケラケラ笑うあたしと呆れたようにそれを見る薫くんがあの時と同じように「でも」と言葉を紡ぐ。そして表情を柔らかくさせてさっき渡したばかりの手作りのトリュフチョコを一粒口に運んだ。


「今だから言えるけど、あの時の柑奈に一瞬ぐっときたのは事実」

「っえ!」

「一生懸命震える手でチョコ持って、そんで大好きだって言われたら可愛いなって思うでしょ、普通」

「⋯なんからしくないね」

「めちゃくちゃニヤけながら言わないでくれる?」

「だって嬉しいんだもん!まさかあの時薫くんがあたしのこと可愛いなって思ってくれてたなんて!もしもタイムスリップ出来たら当時の自分に伝えてあげたい!」


数年越しに聞けた薫くんの気持ちは、色褪せずに届いてこの胸を高鳴らせる。