ハニーシガレット ~バレンタイン番外編~



「結局薫先輩に渡すのはどうなったの?」


その言葉に何と答えればいいのか分からないあたしは「んーっと、」と苦笑いを浮かべた。


「一応、チョコは持ってきた。でも多分、来ないんじゃないかなぁ」


数日前に“バレンタインデー登校しますか?会いたいです!”と薫先輩に送ったメッセージは当日になっても返事が来る事はなく既読スルーのまま。
だけれど一応、念の為、カバンの中に昨日買ったチョコレートを忍ばせている。


「朝チラッと先輩の靴箱見たら何個かチョコレート入れられてたし、廊下でも薫先輩って名前何回か聞いた」

「まあ、学校の王子様だからね」

「やっぱライバル多いなあ」

「でもそんなの柑奈は気にしないんじゃないの?」

「気にしないフリをしてるだけ」


薫先輩はとてもかっこいい。
学校中に先輩に恋してる人がいる事は当たり前で、その分ライバルが多いっていうのも、こうしてバレンタインデーに先輩にチョコを渡したいって思ってる人があたしだけじゃない事も充分、理解しているつもりだ。

だけどやっぱり、他にも先輩にチョコを渡そうとか、告白しようって思ってる子がいるのはモヤモヤするというかなんと言うか⋯。

更に先輩は今現在フリー。


ここに賭けている子はいるはずで。


彼女でもなんでもないあたしが言える立場ではない事はもう、嫌ってほど分かるけど、先輩があたし以外の人からのチョコを受け取るのは想像したくない。


頑張ってアピールして、近付こうと必死になってめげないで想いを伝える事だって、簡単な事じゃない。

落ち込むことも傷つくこともあるし、他の子を気にしないワケでもない。

ただそこでへこたれたり周りに遠慮したりしたら終わっちゃうから気にしないフリをしているだけで実際の片思いはとても苦しい。


「⋯⋯はぁ、」

「ため息つかない」

「だってぇー⋯」


何度確認しても来ない返事。

恋をして初めてのバレンタインデーは好きな人にチョコを渡す事も出来ずにあっけなく幕を閉じる───────はずだった。