高校生になって初めてのバレンタインデーは、ほんのり苦くてちょっぴり甘い、チョコレートのようだった。
高校の入学式で薫くんを見て一目惚れしてから一年、あたしなりに頑張ってアピールしたし告白だって何回もした。
その度に振られてしまって落ち込んだりもしたけれど恋って物凄いパワーを与えてくれるらしい。
落ち込んだり凹んだりしてもあたしの世界には薫くんしかいなかった。
この先どんな人と出会ったとしても薫くんを越えられる人なんていないって、今でこそ積み重ねた時間があるからこそ断言出来ることもこの頃はただただ勢いだけで運命の人は薫くんだったんだって、そう信じ込んでいた。
「柑奈はバレンタインどうするの?」
女の子も男の子もそわそわし始める二月、趣里にそう言われてあたしはわかり易く眉を寄せた。
「迷ってる」
「迷ってるって渡すかどうかって事を?」
「ううん。どうやって周りと差をつけようかって事を」
深刻な表情でそう口にしたあたしに今度は前の席に座り体をこちら側へ向けていた趣里の眉が呆れたように下がる。
「渡すって事はもう決まってんのね」
「あたりまえじゃん」
「でも当日薫先輩学校来るの?それこそ面倒がって絶対来なそうじゃない?」
「そうなんだよねぇ⋯。連絡、してみようかなぁ」
「この前無理やり聞き出したってやつ?」
「そんな事は一言も言ってないんだけどね」
あははと笑う趣里に唇を尖らせながらも、まあ、無理やりではないとは言えないなと内心自覚があるのも事実だ。
先輩が自由登校に入る直前、このままじゃダメだ!と思い何度目かの連絡先交換の打診をした。
もちろん即答でNOだったけど粘りに粘り、挙句の果てには「交換してくれないとこのまま家まで着いて行きます!」というストーカー行為を匂わせたあたしにさすがの薫先輩もそれは嫌だと折れてくれて、メッセージアプリのアカウントを教えてもらった。
その事を趣里に話したら「ストーカー予備軍ね」とドン引きされた事はまだ記憶に新しい。
「でもさ、せっかくならバレンタインデーに会いたいなぁ」
「恋人同士でもないのに?」
「恋人同士になれたら最高だけど、バレンタインデーって特別じゃん。やっぱり当日にチョコ渡したいよ」
もう何度も何度も想いを伝えているけれど、やっぱりバレンタインデーは特別。
想いを伝えましょう!って日なんだから。
それに、こういうイベント事が好きなあたしはこういう特別な日に好きな人と過ごしたいと思う。
誕生日、クリスマスと並んでバレンタインデーは恋する女の子が好きな人と過ごしたいと思う日ベストスリーだ。