その1
ケイコ



よし、行こう!

「みんなー!みんなー!」

私はみんなに向かって走った

と言うより、飛びこんでいった

そんな感じだった


...



「おけいー!」

「横田さーん!」

みんなは私に気づいた

そして、私に向かって走って来てくれてる

みんなとは、あの選抜駅伝で共に疾走した仲間たち

ぶつかり合って、傷つけ合って、そして力を出し尽くし合った

仲間の輪はさらに広がった

その広がった輪のみんなが、私の正面に勢ぞろいだ!


...



退院して、やっと、その仲間が待つ黒沼高のグランドで合流できた…

紅子さんが誕生させた、あの両都県選抜親善駅伝をきっかけとして、ここ、黒沼高校での都県各校による合同練習が実現したんだよね

「おけい、待ってたぞー!」

「横田さん、退院おめでとう」

”あの時”の黄色チーム5人…

オール阪神巨人みたいな東京高のでこぼこコンビ二人も揃って、私を迎えてくれてる

私たちは自然に、円陣の体勢で肩を組み合った…

そう…、3位に入賞した時、”あの時”と同じだった

ははは…、思い出すなあ…


...


しばらくすると、ハイテンションな声が私の背中に飛んできた

「横田さん!よかった…。やっと、あなたと走れる…」

黒沼高陸上部の紅一点、大月さんだ…!

「大月さん、心配かけちゃったね。今日から私も頼むよ…」

私たち二人は両手を握りあって、見つめあってね(笑)

「もちろんよ…。あなたとはぜひ、一緒に走りたかったし。ああ、そうだ。南部君がお待ちかねだったんだ。横田さん…、彼、あなたが来るのを待ちきれなくて、今日は朝からソワソワしててね…。うふふ…。横田さん、さあ、彼が待ってるわ」

「ああ…。まあ、アリガト…」

あれれ…

多美とか橘川さんとか、それに大月さんもみんな走って行っちゃったわ

で…、テツヤと私

二人が残った訳で…


...



テツヤは、私からちょっと離れたとこに突っ立ってる

「全く、みんな…。オレをおもちゃにしてるよな、ハハハ…。まあ、今日はおけいが来るってんで、頭に血が上ってたからね…。おかげで3時間目の体育なんか、鼻血出ちゃってさ。参ったよ。スケベはちょっと我慢すると、血が吹き出ちゃうのかって、みんなに冷やかされてさ…(苦笑)」

「テツヤ…、そんなに我慢してんのか…?」

「ああ、してる。はは…、オレ、聞かれりゃ、大して考えず正直に答えちゃうからな…。まあ、聞き流してくれ。とにかく、待ってたよ。どうだ?オレと一緒に走るか?」

「退院したばかりの私じゃ、テツヤの走りについて行けないよ」

「合わせる。お前のペースは知ってるつもりだし‥。それ、俺が伴走して、”ペースアップ”させるさ。夏の大会、想定してな。どうだ?」

私はテツヤのこの言葉、一生忘れないんじゃないかな…


...


遅れを取ってる仲間に寄り添いながら、目指すべき道に一緒の目線を配ってくれるなんて…

「テツヤ、ありがとう。じゃあ、伴走頼むよ。だけど、遠慮はしないで欲しい」

「了解だ、おけい。なら、3周はオレが前に出て走る。無理しないで、着いて来い。様子見て、ピッチ上げるから。その後、オレの前で3周だ。後ろからペースを見て声かけるよ。気が付いた都度な。それでいいか?」

「うん。頼みます、コーチ…」

二人は無言で会釈して、スタート地点へと向かった

すでに梅雨が明け、今日は真夏日並みの暑さだったわ