俺を頼りにしたのは、どの金融機関にも融資を断られたからに違いない。それほど追い詰められた状況になって、ようやく自分の過ちに気づくだなんて遅すぎる。

「……ですが、この状況になってもまだ残ってくれている人がいる」

 口調を和らげ、事務所の窓から見える工場で働く社員に目を向けると、鮫島さんははっとした様子で少しだけ顔を上げた。彼に目線を戻し、真摯に向き合う。

「これからあなたがするべきなのは、その人たちに感謝と敬意を持って接することです。それは社員だけに留まりません。ご家族と、深春に対しても同じです。非を認めて、上っ面だけじゃない心からの誠意を見せてください」

 仲間や家族への思いやりを忘れてはいけないのは当然だが、自分と違った立場の相手に対しても、見下したり逆に自分を卑下したりする必要はない。その意識を持てるようになったことに関しては、階級制度の中で育ってよかったと感じる。

 鮫島さんも考えを改めてほしいと願いながら、バッグから結婚式の招待状を取り出す。ただし、渡すのは式の日時や場所が記されたペーパーだけだ。

「式に呼ぶことはできませんが、その前ならほんの数分ですが会えるかもしれません。けじめをつけるなら、この機会がいいかと」