彼らが帰った後も、奏飛さんは私のそばについていてくれる。今さらながら仕事のほうが気になり、上体を起こして椅子に座っている彼に問いかける。

「お仕事は大丈夫ですか? 出張を中断して来てくれたんですよね」
「心配いらない。大抵の仕事はどうとでもできる」

 なんてことないといった調子で答えた彼は、包帯をしていない私の手をぎゅっと握る。

「でも、君たちはないがしろにしたくない。深春と、この子以上に大切なものなんてない」

 ……とても真剣な瞳。彼の強い気持ちが伝わってきて、心臓がドキリと鳴る。

「俺はいつからか、誰かのために必死になったり、自分を犠牲にしたりするのは無意味だと思うようになっていた。そうしたところで、相手からなにも返ってこなかったから。そのうち、他人と深く関わろうとしなくなった」

 徐々にまつ毛が伏せられ、そこはかとない悲しみを感じる。

〝相手〟というのは本当のお母様のことだろうか。お母様のためにいろいろな試みをしていたのに、振り向いてもらえなかった幼い彼を想像すると胸が痛い。

「人として大事なものが欠落した自分が、今日母から連絡が来た時いてもたってもいられなくて、他のことは差し置いてすぐにここへ向かっていた。君が苦しんだり、傷ついたりするのは耐えられない」