月下の逢瀬

とりあえず、職員室に寄ってから教室に戻ろう。

そう思って歩いていると、購買に向かうのか、財布を持った女の子たちが数人、ぱたぱたと走ってきた。

保健室を少し奥に行ったところに、購買があるのだ。


「見た? うらやましいな」


「だよね。いつも仲良さそうだしさー」


楽しそうな会話が、すれ違いざまに聞こえた。


その後ろ姿を何となく見送って、再び歩きだそうと前を向いた視線の先に、
親しげにやって来る二人の姿があった。


理玖――……。


それは、理玖と、理玖の彼女の玲奈さんだった。

購買へ行くのだろう。
真っ直ぐにこちらに向かってくる。



ふ、と息を吐いて、瞬間的に波立った気持ちを整える。

同じ学校に通っているんだし、こんな場面は嫌でも見る。
分かってはいるのに、心はいつも必ず動揺してしまう。


ああ、歩かなきゃ。
普通に。
二人なんて、理玖なんて興味がないかのように。


そう言い聞かせて、あたしはゆっくり足を進めた。


だんだん、二人が近づいてくる。
理玖の視線が、ちらりとこちらを向いた気がした。

けれど、あたしはただ前だけを見て歩いて、そしてすれ違った。