月下の逢瀬

「ああ、椎名ちゃんだったんだ。具合悪いの?」


ふいに声がして、振り返ると一番奥のドアから玲奈さんが現れた。


「あ……」


体がびくりと震えた。
あの日以来、玲奈さんと口をきくことはなかった。


「風邪なら帰ったら? 人にうつしたら迷惑だよ」


あたしたちのすぐ横の蛇口で手を洗い、ちらりと視線をよこして言った。
ごく普通の態度で、けれども突き放した台詞。


「久世さん、そんな言い方なくない?」


「何でよ。だって本当のことじゃない。風邪なら大人しく家で寝てたほうがいいと思うよ。
じゃ、お大事にー」


咎める結衣ににこりと笑いかけ、玲奈さんはトイレから出て行った。


「何あれ。冷たい言い方じゃない?」


玲奈さんの消えたドアを見ながら、結衣が呆れたように言った。


「あんな人だったなんて驚き。だから女友達いないのかな?」


ねえ、真緒。と同意を求めるように振り返る。


「え……、玲奈さん、女友達いないの?」