ほろ酔い気分の康介を見送り、リビングに残った二人。

「脚の具合はどう?」
「もう何ともねぇ、……とは言えねぇけど、結構いい仕上がり具合になってる」
「一年休んでランキング下がったけど、やっぱり悔しい?」
「そりゃあな。でもまぁ、上があるってことはまだやれるってことだし」
「お~強気だねぇ。……翔らしい」

三月から新シーズンが開幕するのもあり、そこに合わせるように仕上げている翔は、『失うものは何もない』とブレない信念を持っている。
だからこそ、一年という短期間で事故前とほぼ同じくらいに仕上げて来たのだ。

「なぁ」
「ん?」
「結婚しよう?」
「無理」
「何でだよ」
「何でだろう?今じゃない気がする」
「意味わかんねぇ」

ぐびっと喉を鳴らしてビールを飲んだ翔は、テーブルに頬杖をついて凜を見据える。

「お前、好きな奴いんの?」

今まであえて避けて来た質問を凜に投げかける。

「………いるよ」
「ふぅ~~ん」

お酒の力を借りてなのか、凜もまた、初めて口にした。
『好きな人』の存在を。

けれど、お互いにそれ以上の詮索はしない。
視線で相手の気持ちを推しはかり、無言で見つめ合っている。

暫くして、沈黙を破ったのは翔だった。

「これ、誕生日プレゼント。26歳の誕生日、おめでとう」
「………指輪じゃ……ないよね?」
「え、指輪が欲しかったか?」
「ううん、そうじゃなくて。プロポーズの指輪だったら貰えないなぁと思って」
「あ、このサイズのケースだからか」
「うん」
「開けてみ?」