(四月上旬、翔25歳)

MXGP(世界選手権)を終えた翌日、俺は日本へと向かった。
後からサポートチームが車体など必要なものを持って来てくれることになってて、俺は一足先に出国した。

羽田空港の第三ターミナルに到着すると、父親が到着ロビーにいた。

「おかえり」
「親父一人?」
「……ん」
「凜ママは?」
「家で待ってるよ」

何だろう?めっちゃ空気が重いんだけど。
親父のこんな顔、久々に見た気がする。
顔に影があるというか、何か思い込んでるというか。
とにかく、非常事態っぽい。

親父の運転する車で、凜の家へと向かう。
その車内も重く張り詰めた空気に包まれ、不安の波が押し寄せて来る。

もしかして、凜が誰かに襲われ妊娠したとか?
それとも、どこの馬の骨とも分からん奴に惚れ込んで駆け落ちしたとか?
いや、凜に限ってそんなことしないはず。
じゃあ、何だ?誰かに騙されて、詐欺に遭ったとか?
うん、これなら納得だな。
人が良すぎて騙されるタイプだから、これが一番しっくり来るな。

「凜ちゃんに何か買ってくか?」
「あ、そうだな。ルクレールのケーキでも買ってく?」
「了解」

凜が大好きなケーキ屋さん。
甘さ控えめで飽きのこない味が俺も結構好き。
三か月ぶりに凜に会えるのが嬉しい反面、突然の呼び出しにビビる俺がいる。

親父に聞いても、『敬子さんから聞いてくれ』の一点張りだし。
『凜には内緒で』と言われてるから、凜に聞くことも出来ず。
精神的に不安定の中、一昨日昨日と土日に行われたMXGPの第二戦は七位とまずまずの成績。
凜に会うのにも、後ろめたさは無い。