ホテルに到着しても無言のままの翔。
普段なら何だって言いたいことは言うのに。
よほど根を詰めない限り、噤むことなんてない人だからこそ、少し気になってしまった。

「今酔ってて、覚えてられないかもしれないから、後でメールちょうだい?」

ホテルのソファーに下ろされ、翔を見上げる。
すると、サラサラの髪を掻き上げ、溜息を吐いた。

「ごめんね?メールじゃ困ることなら、今聞く。……怒らないでよ」
「怒ってねぇよ」
「じゃあ、何?」

気持ち悪くはないけど、ふらふらとした浮遊感が抜けなくて、翔が揺れて見える。
ソファーに座る私の足下に腰を下ろし、私の膝に手を乗せて……。

「俺も少し酔ってる」
「え?気持ち悪いの?吐く?洗面所は向こうだよ?一人で行ける?手伝おうか?」
「一度に幾つも聞くな」
「……ごめん」

翔のことになると我を忘れて暴走して、いつも質問攻めにしてしまう。

「気持ち悪くないから大丈夫」
「……ん」

翔は私より沢山飲んでいた。
三位という好成績を収めたのだから仕方ないのかもしれないけど。
『よく頑張りました』的な意味合いで、翔の頭を優しく撫でる。
昔はよく頑張ったねぇと撫でていたから。

「祝いの品、今貰ってもいい?」
「ここにあるの?」
「……ん」
「あるものならいいよ?何だろ??」
「いいって言ったな?」
「……うん、言っちゃダメなの?」
「いや」

ニヤッと目を細めて鋭利な口元になった彼は、膝の上に置かれた私の手をぎゅっと掴んで……。

「ッ?!!!」

動けないように手と足を拘束した上で、彼は柔軟な筋肉を使って上半身を持ち上げ、キスをした。