「いつの飛行機?」
「来週末辺りかな、たぶん」
「……そっか」

八月上旬の夏真っ盛り。
二十一時半過ぎても蒸し暑くて、しきりに鳴く蝉の声が何だか自分の心を表してるようで切なく感じた。

夏は少しでも涼しい時間帯に体力作りをする為、早朝や夜遅くにこうしてロードワークなどをこなす翔。
それをもう何年も見届けている。

近所の神社の境内へと上がる長階段を三十往復した翔は、『死ぬぅ〜』と叫びながら私の隣に寝転んだ。

日本での知名度が上がるにつれ、日本国内で開催される主要な大会に出場していた海外のチームからのオファー。
まだ十七歳という若さが、これからの成長を大いに期待しているようで、現世界王者や世界のトップクラスのライダーが所属する『Dream Star Racing Team』への移籍契約が決まったのが先月。
夏休みを利用して、活動拠点を日本から海外に移すらしい。

こうして傍で見守ることも今後は出来なくなる。

「食べ物とか、合わなかったら送ってあげるから連絡入れてよ?」
「……俺のこと、心配か?」
「当たり前でしょっ!毎日うちのご飯食べて育ったんだから」

汗で額に張り付く前髪をそっと横に流してあげると、その私の手をパッと掴み、瞑っていた瞳と視線が絡まる。
走り込んだ彼の手は、汗が引くための代謝機能からなのか、思ってた以上に冷たい。

「俺のいない間に男作ったら、マジでぶっ飛ばすからな」
「はいはい、心配しなくても大丈夫だよっ。作る時はちゃんと連絡入れるから」
「バーカ、そういう意味じゃねーよ」