(高校三年、十二月二十九日)

去年の夏に渡欧して以来、これが三度目の帰国。
お盆と年末年始にしか帰国出来ない歯がゆさ。
毎月とは言わないが、せめて三カ月に一度くらいは凜の顔が見たい。

渡欧して直ぐは頻繁にテレビ電話もしていたが、今年に入った辺りからか、凜からの連絡が遠のいている。
一応メールをすれば返信をくれるし、電話をすれば出てくれる。
だけど、何て言うか……。
通話時間が短くなったし、メールの返信も素っ気ない。
元々キャーキャー騒ぐタイプじゃないから甘い言葉を期待してるわけじゃないけど、それでも何となく冷めてる感は否めない。

羽田空港に到着したのに、迎えに来たのは父親と凜の母親。

「凜は?」
「……友達と用事があるとかで」
「そうなんだ」

凛ママは嘘が下手過ぎる。
顔に『嘘吐いてごめんね』って書いてあるよ。
父親の車でショッピングモールに寄って年越し準備の品を凜ママと一緒に買い物する。

「親父、これ、凜の好物」
「ん、幾つか入れとけ」
「おぅ」
「翔くん、凜の好きなもの覚えてたのね」
「……当たり前じゃん」

……好きな女の好物を忘れるバカがどこにいる。

父親は元プロモトクロスライダーという肩書でバイク専門店を営んでる他に、モトクロスのジュニア教室も開いている。
『第二の真宮翔を目指せ!』的なキャッチコピーで、俺を目指して教室に通う子供も多い。
元プロが教えるプロに育てるコツ?みたいなもんなんだろうが、結構有望株が多いと父親は言う。