不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。







「お母さん、ただいま……っ!」


「あら、おかえり伊都。ずいぶん慌ててるのね」


「あれ、お母さんどうして家にいるの?」




いつもこの時間はお店の仕込みに追われていて、家にいるはずのないお母さんがリビングで洗濯物を畳んでいたから驚いた。


小学校3年生の時にお父さんが亡くなってから、お母さんはお父さんの一番の大きな形見である定食屋を1人で切り盛りするようになった。



お父さんがバスケ選手を引退したら、いつか、夫婦2人の夢であった定食屋をしようねと取っておいた店舗だったそうだ。




あのとき転校するのはツラかったけれど、それでもいつも笑顔を絶やすことのないお母さんに私は随分救われていたんだと思う。






「おバカ。今日は水曜日、お店定休日でしょー?」


「そっか。あ、洗濯物、私畳んどくよ」


「いーのいーの。今日くらいお母さんに任せなさいな」


「ほんとに?」


「いつもね?お母さん毎晩遅く家に帰って来て思うの。ここは前の家と違って古い家だけど、庭も台所も、お風呂もトイレも全部きれいなのは伊都ちゃんが毎日コツコツ掃除してくれてるからなんだって」


「そ、そんなことないよ」


「放課後学校から帰るとお店も手伝ってくれるし、服はいつもピシッと畳んでくれてるし、お母さんのエプロンはアイロンまで掛けてくれてるでしょ?ああいうの見ると、本当、伊都には感謝してもしきれないんだよ」


「や、やめてよお母さん!恥ずかしいからっ」